医師を取り巻く環境とは?―医師が選んだ「今年の漢字一字」の4年推移

医師が選ぶ「医学界・医師界における今年の漢字一文字」について

医師のコミュニティサイト「メドピア」が2012年から毎年実施している医師へのアンケートの中に、医師が選ぶ「医学界・医師界における今年の漢字一文字」というものがあります。各年の年末に行なわれ、毎年2,000~3,000人の医師が回答し、医師・医学界の一年を振り返るものとして発表されます。

今回は、医師が選ぶ「今年の漢字一字」の2012年から2015年の推移をもとに、一年の短期的な世相というよりも、根深く長期に渡って医師を取り巻き続けている環境を明らかにしたいと思います。

 

多くの医師が4年間選び続けている漢字とは?

今年の漢字一字と聞くと「1位はどこか?」というところから入ってしまいがちですが、医師を取り巻き続けている環境を明らかにする上では、4年間毎年上位にランクインしている漢字に注目することが重要です。下表にて10位までの「今年の漢字一字」の4年間の推移をまとめました。

医師が選ぶ「今年の漢字一字」の4年間推移

※医師専用コミュニティサイト「MedPeer」調べ

ここで4年間にわたって10位以内にランクインしているのは「忍」と「変」の2文字だとわかります。どちらもあまりポジティブでない印象の漢字です。

それでは、なぜ医師がこの漢字を選んだのか、その背景を探ってみましょう。

 

「忍」を選ぶ主な理由

「忍」を選んだ医師の投票理由として掲載されているものは、下記の通りです。

  •  世相を反映して、医学界においても、耐え忍ぶ一年であったように、思います。(20代、循環器内科)
  •  われわれ医師も、厳しい医療状況の中で頑張ってやっています。忍耐の忍を今年の世相を表す文字として選びました。(80代、リウマチ科)
  •  在宅医療推進、医療費削減など一般病院では耐え忍ばなければならない(60代、一般内科)
  •  医療をとりまく状況はやはり厳しいと感じます(30代、産業医)
  •  消費税が上がり、医療費は抑制され、忍の一字の年でした。(30代、眼科)
  •  今さらですが忍耐が必要な仕事です。いろいろな意味で!(50代、整形外科・スポーツ医学)
  •  消費税が上がり診療報酬の改定も望めない中、現状に甘んじて目の前の患者さんや医療を支えている気持ちを表したものです。(60代、整形外科)
  •  勤務医の厳しい労働環境がますます悪化し、消費税の影響で病院収支も厳しく、ひたすら忍耐を強いられているため。(50代、呼吸器内科)
  •  診療に追われ、従業員に責められ、妻にいびられ…、ストレスの多い生活であり、「忍」が最も適切かと考えます。(60代、一般内科)

ここから見えてくるのは、「忍」を選ぶ背景には、医療費の抑制と消費税増税による病院の経営状況の厳しさと、勤務医の厳しい労働環境です。

一つここで補足すると、消費税は患者から医療機関が受け取る医療費にはかかりませんが、医療機器の購入など、医療機関が支払う費用には消費税がかかるため、結果的に医療機関が余計に負担を強いられることになります。数%の違いではありますが、もともと経営的に余裕のない医療機関も多いため、これだけで赤字に転落することもあります。

現行の法律上、医療機関で医業収益を増やせるのは、ほぼ医師しかいないため、収支が厳しくなった分の負担を主に背負うのは結局のところ医師になってしまいます。

 

「変」を選ぶ主な理由

「変」を選んだ医師の投票理由として掲載されているものは、下記になります。

  •  医療界では治療選択に様々な「変」化が生じています。(30代、呼吸器外科)
  •  医療制度や診断・治療内容、患者さんや医師ふくめ医療スタッフの考えかた等々様々、めまぐるしく変化していると思います。(40代、耳鼻咽喉科)
  •  TPPなど医療に関わる変化が生じそうな出来事が多くあり、後の世からターニングポイントとなった年と評価される事になりそう。(40代、老年内科)
  •  訪問医療制度、病院のあり方など変化があった一年でした。(50代、小児科)
  •  消費税増税など医療、福祉なども変革の一年であったから。(30代、精神科)
  •  変な事件、変な会見が多かった。さまざまな変革期でもあった。(40代、老年内科)
  •  医療制度が変革の過渡期で、現場もそれに対応しようと変わってきている。(40代、小児科)
  •  専門医制度の問題、新たな医学部の新設など変化の多かった年と思います。(50代、血液内科)

上記は2012年から2015年までの回答を並べたのですが、毎年異なるトピックで変化が起きているのが見受けられます。しかし、毎年内容は異なるとしても、「変化の多かった年」であるという印象を医師が抱いていること自体が実に示唆的です。

「変化を感じる」ということは、「変化によって影響を受けやすい」ということの裏返しでもあります。TPP・在宅医療制度・消費税増税・専門医制度など、話題は違っても医療制度や情勢の変化に対して非常に敏感になるのは、その変化の影響が自分にとって大きいかもしれないと考えているからだと思われます。

この「制度変更への敏感さ」はどこから来るのでしょうか?

一つ要因として考えられるのは、医療における価格の決定方法です。市場経済では価格の決定は需要と供給のバランスによって決まりますが、医療においては公的に価格が設定されています。設定されている価格表は診療報酬と呼ばれ、2年に1度見直しされ、そのたびに時の政権の意向による影響を受けて価格が決定されます。

つまり、自分の仕事に対する値決めが、その仕事の結果を直接享受する患者さんによってではなく、国によってなされるという認識が奥深くにあることによって、医師は自然と制度に対して敏感になってくるのではないか、という仮説が成り立つように思います。

 

医師を取り巻く「忍」「変」の環境は変えられるか?

以上より見えてくる医師の姿は、国の政策や制度の「変」化に敏感になりながら、厳しい経営状況を耐え「忍」んで診療に臨んでいるというものです。こうして考えると、医師を取り巻く環境は決して明るいとはいえないとわかります。

この状況は、公的な特権を得ている「医師」である限り、仕方ないものなのでしょうか?ただ耐え忍ぶしかないのでしょうか?少なくとも、私はそう考えてはいません。

社会の中の多くの人が関わり、多くのコストも投じられる医療の現場でこそ、幸福を実現できなければならない、そうでなければ社会全体の幸福など望めない、と私は考えます。そのためには、医療において中心的な役割を果たす医師が、そもそも幸福でなければ始まりません。

この問題は、簡単に答えの出るものではないと思います。しかし、今ある環境をただ受け止めるだけでなく、環境を変えていく方法はきっとあるはずです。

どの地域の話だったかは定かではないですが、小児科医がいなくなるかもしれないと危惧して、地域の母親達が結束して運動を起こし、コンビニ受診を減らした話を聞いたことがあります。

環境は本来変えていくことのできるものです。耐え忍ぶ高貴さは美徳ではありますが、それに頼る社会では、長く持続することはできないと考えます。持続可能で、関わる人を幸福にできる医療の現場の実現に向けて、哲学の立場からもこれから考えていきたいと思います。

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医師を取り巻く環境とは?―医師が選んだ「今年の漢字一字」の4年推移」への1件のフィードバック

  1. 医師が選ぶ2016年の漢字一字が本日発表されました。
    https://www.google.co.jp/amp/prtimes.jp/main/html/rd/amp/p/000000085.000010134.html

    今年は高額医療費の問題やオプシーボの問題が大きく取り上げられたこともあってか、「高」が一位となっています。

    一方で、「変」「忍」は今回も10位以内に入っており、医師を取り巻く環境は、今年も大きく変わっていないということが伺えます。

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