人工知能は人間の頭脳を超えた?―AIが囲碁のプロ棋士に勝った日
近年、人工知能の発展が目覚ましい進化を遂げています。人工知能(AI)とは、人工的にコンピュータ上などで作り上げられた、人間同様、あるいは人間以上の知能のことを指します。2015年に日産が自動運転車の発売を発表し、Googleが自社開発の人工知能をオープンソース化(誰でも自由に使えるように)したことで特に注目を集めました。
更に最近(2016年1月28日)では、数年前まではあと100年は人間が勝つと言われていた囲碁において、プロ棋士が初めて人工知能に負けたことが話題を集めています。将棋では2013年に初めて人工知能がプロ棋士に勝ち、チェスでは既に1997年に世界トッププロに人工知能が勝っていただけに、人間の最後の砦と考えられていた囲碁でこれだけ早く人工知能が人間に勝つというのは、予想外だったといえましょう。
将棋や囲碁のプロ棋士にとってみれば、自分が生涯かけて積み上げてきたものに対して、人工知能がそれをあっという間に凌ぐようになってしまうのは、不本意であるとともに、「自分がやってきたことは何だったのか」とでも言いたくなるような無常さを感じてしまうのではないのでしょうか。
実際、プロ棋士の仕事は、ファンの人々に素晴らしい棋譜(指し手の記録)を残すことだと考えている人も多いと思います。そのプロ棋士よりも、AIの方が素晴らしい将棋や囲碁を指すのだとしたら、プロ棋士は今後何を仕事としていけばよいのか、その存在価値を問われることになります。
人工知能によって人間の仕事がなくなる?
実は、このような問題は将棋や囲碁に限らず広い分野で起こっています。先ほどの自動運転技術の例でいえば、タクシーやトラックの運転手は人工知能に取って代わられることが予想され、多くの企業で未だに行なわれている単純な事務作業も同様の運命をたどることになるでしょう。
実は、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士によれば、現在人間が行っている仕事のうち、47%の仕事が人工知能の進歩によってなくなるとされています(元の論文はこちらよりご確認いただけます)。その中には、レジ係や入力係などの事務作業員から、訪問型の営業マンや、交番の警察官まで、多くの職種が含まれます。
医師も例外ではない?人工知能が変えていく医療のカタチ
それでは医師の仕事はどうかというと、オズボーン博士は医師(内科医・外科医)の仕事は人工知能に置き換わりにくい仕事であると考えています。しかし、安心はできません。実は、既に「診断」を行なう人工知能も開発されているのです(NHKの特集記事掲載)。
それによると、症状や身体の部位について簡単な問題に答えるだけで、過去のデータベースから、疑いのある病気の種類や受診すべき診療科、近くの医療機関などを教えてくれるアプリが既に開発されているようです。
その他、尿内の化学物質から人工知能を活用して肺がんの診断を行なったり、東京大学医科学研究所で人工知能をがん治療に役立てる研究を進めたりなど、医療の中で人工知能が果たす役割は日に日に大きくなってきています。
このままいくと、医師が現在行っている仕事(の一部)を人工知能が代替する、ということが考えられます。将来、人工知能に仕事を奪われず、むしろ人工知能の力を上手く活用して仕事を行なうために、医師は今後どのような働き方が求められるのでしょうか?
医師にしかできない仕事―人工知能(AI)が得意なこと、苦手なこととは?
一つの指針としては、「人工知能が得意な領域は人工知能に任せ、人工知能が苦手な領域を人間が行う」ということが挙げられると思います。つまり、医師(人間)にしかできない仕事に注力していくことが、今後人工知能が発達した際にはより重要になってくる、ということです。
それでは、人工知能が得意な領域、苦手な領域とは何でしょうか?ハーバードビジネスレビューに掲載されていた安宅和人氏の見解を下表にて紹介します。
まず得意な領域についてですが、画像認識などの識別や、リスクやニーズなどの予測、文章作成や自動運転などの実行の3つの領域があります。医師の仕事に限定すると、画像診断や発症リスクの評価、手術などの処置の分野で、今後人工知能が人間を超えてくる可能性があると考えられます。
一方、人工知能が苦手な領域は8つに分かれ、①意思をもつこと、②(人間のように)知覚すること、③少ない事例に対応すること、④問いを生み出すこと、⑤(解決の)枠組みをデザインすること、⑥ヒラメキ、⑦常識的判断、⑧人を動かす力、リーダーシップが該当します。それらの領域であれば、この先も人工知能に仕事を奪われることはないでしょう。
それでは、医師の仕事にとって、人工知能が苦手とするそれらの領域には、具体的に何が該当するのでしょうか?以下に8つの領域に分けて当てはめてみます。
- 病院・クリニックの今後の経営・診療におけるビジョンやゴール設定
- 患者さんが受診するにあたっての「(予約)→来院→診察待ち→診察→支払い」の流れにおける不快なポイントの発見と改善
- 新しい症例や対処法が確立されていない症例に対する対応
- 経営・臨床・研究において未だ顕在化していなかった新たな問題の発見・提起
- 症例に対する新たなアプローチの提案や、現在の問題に対する、新たな視点・枠組みからの捉え直し
- 問題に対する画期的な解決法のヒラメキ
- 患者さんや同僚に対する常識的な対応
- 患者さんの説得や、同僚・職員のマネジメント
大まかにまとめると、より創造力、問題発見・解決力、コミュニケーション力が求められてくるということでしょう。特に経営や研究に携わる立場ではない勤務医の場合、コミュニケーション力が今後より重要となってくると考えられます。
個人的な見解をお伝えすれば、「人とのコミュニケーションは苦手」という医師も多いと思いますが(特に患者さんと直接接する機会の少ない診療科)、人工知能等の技術の発達によって、そうも言っていられない状況が差し迫りつつあるのでしょう。積極的に人に関わっていき、責任をもって人を動かし問題を解決していく姿勢が、今後の医師にはより求められます。
医師と人工知能について2月に記事を書いて以降、直近で人工知能に関して様々な動きがありました。
問題の本質は変わらないと考えていますが、直近の動向や論点をもとに、また新たな視点から改めて記事を書き起こしたいと思います。
さしあたり、気になる動きを下記に記します。
まず、人工知能の医療活用の直近の動きに関してですが、
医師の診療支援ツールとして本格的に実用化の波が押し寄せてきています。
・ホワイトジャックによる診療支援(自治医科大にて運用試験中)
http://www.asahi.com/articles/ASJ3X5FL5J3XULBJ00L.html
・人工知能による自閉スペクトラム症の診断、専門医と85%一致(ATR)
http://www.sankei.com/life/news/160414/lif1604140027-n1.html
http://www.atr.jp/topics/press_160414.html
・IBMワトソン(診断の正答率が医師を上回る結果に)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160410-00507156-shincho-sci
上記の動きを見てみると、
2045年(人工知能が人間を上回ると予想されている)に先立って
医療、特に診断領域では人工知能の活用が急速に広まり、
それに伴って医師と人工知能の役割分担が生じてくると考えられます。
この動きに合わせて、医療界・医師間でも関心が高まってきています。
・医師の9割が、人工知能が診療に参画する時代が来ると回答(Medpeerアンケート)
https://medpeer.co.jp/press/_cms_dir/wp-content/uploads/2016/05/Posting_20160518.pdf
・創造的な仕事を行なう医師と、ルーチン業務化する医師に二極化する?(m3.com)
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/396411/
上記のような背景をもとに、後日、改めて考察を加えたいと思います。
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NHKの特集記事のリンクについて、元のページのURL(http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2016_0102.html)が削除されてしまっていたため、インターネット上の情報を収集・保存している、InternetArchive上に保存されていた該当情報のURL(https://web.archive.org/web/20160102123533/http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2016_0102.html)に変更しました。
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人工知能に関する最近の動きについて追記です。
政府が2020年に人工知能(AI)を診療報酬の対象とする方向で検討に入っていることが報じられています。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161108-OYTET50033/
人工知能が診療の標準に取り入れられる日は間近に迫っているのかもしれません。
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